ここにはそらがない。
リンはくりかえす。ここにはそらがない。くりかえされることば。いくつかのことば。まっている。じめんのしたのいわかげに、ちいさなひをともしてずっとリンはこしかけている。リンはまっている。と、あたまのなかでくりかえす。リンはまっている。おとこのこを、ふたり。まって、ここにいる。ぼおうっとしたあたまでリンはくりかえす。ここでまっている。
じめんのしたのいわかげははるかかなたまでむすうにそんざいしている。そういうこともあたまのなかでくりかえす。ここにはそらがない。ここにははてもない。そらのあるせかいはとおく。いわかげはむすう。
むすうにあるいわかげにはそれぞれにだれかが、まちびときたるまでまっている。はるかかなた。とおくまでも。いつかくる。かならずここを、まちびとがとおる。
ここでまっている。リンはここでまっている。まちびとはかならずまっているもののところをとおる。かならずあえる。くりかえす。
ひとびとは。まちびとがきたのちも、またつぎのまちびとのためにまつひともおりまちびととともにどこかへとたびだつものもいる。リンも、ここでまつことにきめてこしかけるまえ、おとうさんとおかあさんと、それからリンのしっているいくにんかにあった。リンはここでまつことにしたと、かれらにつたえた。かれらはうなづきたびだった。
もしかすると、すぐそばでリンがたびだつことにするまでまっていてくれているのかもしれない。むすうのいわかげははてなくとおくつづき、そこそこに、ほのかなひかりをともすひが。それぞれによういされている。リンのひかりとおなじものが、だれにでも。
ここにはそらがない。
ここにはひかりがある。
やみのなかに、ともしび。みつけやすいのはそういうもの。まっている。
はじめにだれかにひをもらい、ああそうするものだなとリンもここでまつあいだ、とおりかかるだれかに、ひをわたした。
うけとっただれかも、きっとそうしたのだろう。リンをしっているだれかも、あのあとなんにんもなんにんもとおりすぎていった。みな、だれかをさがし、そのあいてはかならずどこかで、みつかった。みつからないものはいない。どこにもいないなんてことは、けしてない。ただ、リンがまずさいしょにさがしたおとこのこはみつからなかった。
リンはそのこをずいぶんとさがした。さがしてもさがしても。あのこはどこにもいなかった。
どこにもみつからないね。
どこにもみつけられないね。
どこにも。いない。
オビトがどこにもみつからないね。
くりかえす。ここにはそらがない。いわかげはむすうにある。まっている。みつからないから、まっている。リンはくりかえす。
ちいさなひをみつめながら。おもいだす。ぼおっとするあたまでおもいだす。くりかえしおもいだす。たいせつなこうもくを、きえてしまわないようにおもいだす。
いつだろう。いつのことだか。リンのそばをたくさんのひとがとおりすぎていった。リンのそばをそのこにちかしいひとびとが、いちどにおおぜいとおりすぎていくのをみた。リンはかれらにもじぶんのひをわけながら、あのこがかれらをむかえにこないだろうかとあたりをみまわした。かれらをでむかえるむかえのものはたくさんたくさんきたけれど、そのなかに。リンのさがしてるおとこのこはいなかった。
たびだつかれらがリンをふりかえり。いっしょにいかないかとさそうけれど、リンはくびをふっていっしょにはいかなかった。そう。そうか。そうだねな。そうだねと。みながどこかでにているひとびとのなかにリンは、オビトのすがたをさがしたけれど、オビトはどこにもいなかった。
オビトはいなかった。さっていくひとびとをみおくって。それからもリンはここでまっている。ずっと。そう。リンはまっている。オビトのことをまっている。あたまのなかでくりかえす。それから、もうひとり。カカシ。そう。カカシのことをまっている。カカシ。オビト。ふたりのおとこのこ。リンのたいせつなおとこのこたち。カカシ。オビト。おとこのこたちはそういうなまえだ。リンはここで、ふたりをまっている。
じかんのかんかくはない。きのうもなければきょうもなくあしたもなければいつからだとかいつまでだとかそういうものもない。ここにはひるはない。よるもない。ここにはそらがない。ただ、じめんのした。あちらから、こちらへ。とおりすぎていくだけのばしょ。
となりにだれかいる。
くびをうごかすと、たしかにそこにひとがいた。リンはずいぶんひさしぶりにだれかをみた。わすれてはいけないだいじなこうもくいがいのことはすぐにはおもいつかなくて、ああ。ええと。そうだ。オビトとちかしいひとのなかの、ひとり。リンとおなじで、オビトをまっているひとだ。オビトと、それから、あとにのこしてきたしんゆうをまっている。なまえはなんだっただろう。うちは。・・・うちは。
リンはいつだかまだここにこしかけるまえにオビトをさがしていわかげのあいだをさまよいあるき、すうふんのことにもなんねんのようにもかんじられるじかんのなか、すうにんのしゅうだんであつまっていたかれらをみつけて、かれをオビトととりちがえたことがある。いや、それはまだ、リンがじめんのしたにくるまえのことだったかもしれない。ああ、そうだ。このひとのなまえはうちは…シスイだ。
くらがりに。どこかでにているひとびとがいる。こきょうのよみちはただくらい。とりちがえるよ。とりちがえるよ。とりまちがえるよ。とりまちがえてるよ。まちがえているよ。のはらリン。
のはらリン? ああそうか、そういえばリンはそういうなまえだった。のはらリン。うちはシスイがなまえをよんだ。むかしむかし。こきょうのさとでよみちにゆきあって、リンはシスイをオビトととりちがえ、したしくはなしかけてをとってあるきあかりのしたでよくよくみれば。
ちのちかしいあいてどうしよくにてはいたがひとまちがい。きがついて、あわてたことがあった。
じめんのしたのくらがりでも。あのときのようにオビト、てにすがり、うすくらいところでさがしたよオビトずっとさがしてたよ。シスイにむけてよばわった。
オビト。オビト。
やっとみつけた。
どこにもみつからなかった。
ずっとさがしてた。
あいたかったよ。
どこにいたの。
オビト。
オビト。
オビト。
シスイはリンのことばをひととおり、しずかにきいてからとりすがられたてにてをかさね、やさしいこえでこたえてくれた。
みつからないんだな。オビトはみつからないんだな。オビトはやはりどこにもいない。オレも、いちぞくのものもさがしたが、オビトはみつからない。そう、こたえた。
よくみれば、うちはシスイはリンや、あのとき。じめんのしたで、いわかげで。そらのないくうどうで。はんぶんをうしないひとみをとじてよこたわり、さいごまでそばにいようとかかえていたけどかなわずにてがはなれていく。あのときの。
わかれたときのオビトよりも、たかいところからこえがする。ずっとずっとおとなになっていた。シスイは。リンやオビトとかわらない、としのおとこのこだったはずだ。もう。ずいぶんとおとなのおとこのひとに、なっていた。
めをとじててをかさね、のはらリン、となをよばれた。オビトは。いない。まだ、こちらにきてはいない。そういうことだと、リンにいった。
シスイはしばらくリンとてをかさね、オレは。つぶやくようにリンにかたった。
オレたちのいちぞくは、たくさんこちらにきてしまった。オレのまえをとおりすぎていった。そうなってしまった。ここでオレはオレにつながるひとびとと、オビトを。こちらにはまだきていないしんゆうをまっている。オレはめを、しんゆうにあずけてこちらにきてしまった。だからそのときまでこのめはひらくことはできない。
リンにもわかるシスイのとじたまぶたのむこうがわ、そこはくうどうでなかみがない。
そうだリンの、むねにあいたかざあなが、まだどこかのとおくにあってふたりのおとこのこがリンのまえにあらわれるそのひまでは。けしてけしてうまらないように。シスイのひとみもそのときまではくうどうだ。
このめはいつか、しんゆうとともにオレのもとへともどってくるだろう。そのときまで、まつのはたやすいことだ。のはらリン。
おまえはオビトをみつけることができる。のはらリン。まっていてやってくれ。
オビトのひとみははたけカカシとともに。オビトのもうかたほうもあちらにある、おまえがつなげたふたりを。おまえはあいしていたんだろう。シスイのこえはやさしくひびく。のはらリン。オビトを。まっていてやってくれ。
ええ。うちはシスイ。あなたもオビトを待っていて。わたしはずっとそうするつもり。
まだ、オビトは。このせかいのどこにもいない。
そういうことだと、リンもわかった。オビトはまだ。まだ。そらのあるせかいのほうにいるのだ。そうか。まだオビトは、そらをみてるのだ。たいようのしたにいるのだ。つきがあって。ほしがあって。のはらをあるいているのだろう。オビトはカカシと、またいっしょにいるのだろう。それならいい。それだったら。いい。
いまはいつだろう。いまだろうか。いまではないのだろうか。すこしまえのことだろうか。とおいまえのことだろうか。シスイはいつからそこにいたのだろう。いつまでもそこにいたのだろうか。となりにこしかけたシスイがリンにほほえみかけて、オビトはどこにも。まだいない。
だけどほら、みてごらん。
すうとひとみをあけてみせる。くうどうだったシスイのひとみはもとのとおりにもどっていた。もどってきたのね。もどってきたよ。かたほうがさきにもどってきて、もうかたほうももどってきた。
しんゆうは、きたよ。
イタチはおとうとをまつそうだ。
オビトは。
まだむこうにいる。
だからどこにもみつからない。
そう。
そらのあるせかいでは、じかんがながれているのだろう。オビトはまだまだそこにいる。いつまででも、リンはここでまっていれば、いいのだ。くりかえす。まっている。かならずオビトをみつけてみせる。ちゃんとみてるんだから。かならずカカシを、カカシのむねにあいたかざあなも、なおしてあげるよ。かならず。
さんにんでいっしょに。わらえるひがくるまでは。
リンはここでずっと。まっているよ。
ここには、そらがない。
オビトはまだ。どこにもみつからない。
リンはくりかえす。まっているよ。
いつまででも、まっているよ。
いつになっても、かまわないよ。
ずっとまっているから。オビト。カカシ。
ここにはそらがない。じめんのしたのくらがりで。リンはまっている。くりかえす。わすれないためにくりかえす。オビトのなまえを、カカシのなまえを。くりかえす。まっているよ。 |
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